本分野では、分子生物学的手法やプロテオミクス的手法、遺伝子改変病態モデルマウスを用いて、難治性内分泌・代謝疾患やメタボリック症候群・生活習慣病の病態解明、新規診断法・バイオマーカーの開発や新規創薬・治療法の開発を進めています。これまでに、ホルモン核内受容体であるPPARγやレチノイン酸受容体(RAR)・レチノイドX受容体(RXR)のリガンドの、pleiotropicな降圧作用や抗動脈硬化作用を明らかにしてきました。

 現在進めている主な研究内容としては、

1)ハイスループットスクリーニング(HTS)を用いた内分泌・代謝疾患に対する新規創薬

2)プロテオミクス的手法を用いた転写複合体の精製・同定と、それによる 内分泌・代謝疾患における遺伝子発現制御メカニズムの解明

3)肥満高血圧症の原因と考えられる脂肪細胞由来の未知の液性因子の精製・同定ならびにそれを基盤とした新規診断バイオマーカーの開発

が挙げられます。将来的な診療への橋渡し・患者さんへのフィードバックを目指して、教室員は日夜研究に励んでいるところです。

 以下でそれぞれのプロジェクトの詳細を紹介します。

1)ハイスループットスクリーニング(HTS)を用いた内分泌・代謝疾患に対する新規創薬

 ハイスループットスクリーニングとは、多数の化合物ライブラリーからロボット等を使って評価を行い目的の活性を持った化合物をピックアップする手法です。当研究室では特に内分泌・代謝疾患において重要な役割を果たしている転写因子に着目して、その転写因子を活性化もしくは活性抑制する化合物を探索しています。活性に評価は主にルシフェラーゼアッセイを使用し転写活性を評価しています。目的の活性を持った化合物をピックアップできたら、薬学部と共同で化合物の構造を最適化した後に疾患モデルマウスに投与し薬効を評価します。マウスでも効果が確認できた後には、製薬会社等と協力して前臨床試験や臨床試験へと進めることを計画しています。

・これまでに行ってきた/現在進行中のハイスループットスクリーニングの対象疾患

原発性アルドステロン症、クッシング症候群、糖尿病性腎症、糖尿病、アテローム性動脈硬化

糖尿病新規治療薬を目的としたハイスループットスクリーニングの一例

2)プロテオミクス的手法を用いた転写複合体の精製・同定と、それによる 内分泌・代謝疾患における遺伝子発現制御メカニズムの解明

 細胞内ではDNAはヒストンタンパク質に巻き付いてクロマチンと呼ばれる構造をとっています。転写が活性化しているDNA領域ではこのクロマチン構造が緩むことで転写に必要な因子群が集まりやすくなっていることが昔からよく知られています。したがって転写因子による遺伝子発現制御では、クロマチンの構造調節というステップが重要になってきます。このクロマチン構造調節を行うために転写因子は、転写共役因子とよばれるクロマチン構造調節活性をもった酵素の複合体をリクルートします。我々のグループでは、この転写共役因子複合体を最新のプロテオミクスの手法を用いて精製・同定し、転写因子による遺伝子発現調節のメカニズム解明を行っています。ここで同定された因子によって、遺伝子発現制御メカニズムが解明されるだけでなく、新たな創薬標的として新規治療薬の開発にも結びつくことが期待されます。これまでに、原発性アルドステロン症、糖尿病、糖尿病性腎症、前立腺癌、サルコペニアなどに関する転写因子に注目してプロジェクトを行っています。

プロテオミクス的手法による転写共役因子同定の一例

3)肥満高血圧症の原因と考えられる脂肪細胞由来の未知の液性因子の精製・同定ならびにそれを基盤とした新規診断バイオマーカーの開発

 ヒトの体にはレニン-アンジオテンシン-アルドステロン(RAA)系といわれる血圧調節機構が備わっており、体内の血圧を低くならないように保っています。RAA系はアンジオテンシンIIを作りだし、副腎皮質に働きかけ、血圧を上げるホルモンであるアルドステロンを分泌させます。肥満になると高血圧を併発しやすいことが知られていますが、その背景としてRAA系とは別の経路で副腎皮質に働きかけ、アルドステロンの分泌を上昇させることが問題となっています。肥満は脂肪細胞が増加、肥大している状態ですが、脂肪細胞から副腎皮質に働きかける因子が分泌されており、血圧を上昇させることが報告されています。私たちはこの因子を同定することで、肥満に併発した高血圧の病態を解明し、バイオマーカー開発、診断、治療に役立てることを目的としています。また、同時に難治性高血圧症として知られる原発性アルドステロン症における分子機序の解明によるバイオマーカー開発、新規治療法開発も同時に行っています。

脂肪細胞由来の未知の昇圧因子の同定と新規高血圧治療薬の開発